●漢方医学の「気・血・水」とは

漢方医学は、「気・血・水」という考え方が基本とされています。人の体はこの3つの要素で構成されており、互いに影響し合いながら心身のバランスが保たれているという概念です。

・気（き）……大気や食物から取り込む生命活動エネルギー

・血（けつ）……血液と、血液によって巡らされる栄養素や酸素

・水（すい）……血液以外の体液

PMSの場合、「気」「血」「水」すべてのバランスが悪い状態で、気の流れが悪いことを意味する「気滞」や「気逆」、血液の循環が悪い「お血（おけつ）」、水の異常が起こっている「水毒」が関係している症状だと考えられています。

・「気」の異常……イライラ、抑うつ症状、気分が不安定など

・「血」の異常（お血）……頭痛、肩こり、腹痛など

・「水」の異常（水毒）……むくみ、吐き気、めまいなど

特にPMSの女性に多いのは「気」の異常と「お血」の状態であるとされています。そのため、特に「気」と「血」の流れをよくすることに重点を置いて漢方薬を処方されます。

●漢方薬は西洋薬との併用も可能

数種類の生薬を組み合わせている漢方薬は、基本的に単一成分である西洋薬と違い、ある特定の症状だけに効果があるわけでなく、同じ薬で複数の症状に効果が期待できます。そして、基本的には副作用の心配がありません。PMSやPMDDでは、いくつもの症状が同時に起こる場合が多いので、漢方薬の考え方はPMSやPMDDの治療薬に適しているとも言えるでしょう。

抗うつ剤や抗精神病薬は、便秘になりやすく女性ホルモンのバランスを崩すことが多いため、その副作用を軽減させるために、漢方薬と西洋薬の併用も可能です。

■PMS治療に用いられる漢方薬とは

PMSやPMDDは「気」と「血」の流れの異常によるものと考えられています。そのため、次のような生薬が使われます。

・気をめぐらす生薬（理気薬）：柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子など

・血を流す生薬（活血薬）：当帰、芍薬、川キュウ、牡丹皮、紅花、田七人参、延胡索など

●PMS治療に使われる漢方薬とその効能

実際にPMSに効果があるとされており、処方されることの多い漢方薬を紹介します。

・加味逍遥散（かみしょうようさん）

・当帰芍薬散（とうきしゃくやくさん）

・桃核承気湯（とうかくじょうきとう）

・桂枝茯苓丸（けいしぶくりょうがん）

・温経湯（うんけいとう）

・抑肝散（よくかんさん）

・半夏厚朴湯（はんげこうぼくとう）

・五苓散（ごれいさん）

なかでも、「加味逍遥散」と「当帰芍薬散」はPMSの薬として処方される代表的な漢方薬です。どちらも体格がなく、疲れやすい体質の女性に用いられる漢方薬です。精神症状の強い場合は加味逍遥散が、冷えやむくみが強い場合では当帰芍薬散が使われます。

「桃核承気湯」は、のぼせや便秘のほか、精神不安、イライラ、不眠、腰痛や頭痛にも薬効があるとされます。

また、「桂枝茯苓丸」は、肩こりや下腹部痛、頭痛、めまい、のぼせ、足の冷えなどのほか、女性ホルモンの変化によって起こる身体症状や精神神経症状などにも適しています。

抑肝散は、月経前のイライラや怒り、攻撃性の強い方や、不眠傾向にある場合に適しています。

温経湯は、女性ホルモン調節作用もあり、PMS症状だけでなく不妊治療にも使われます。

基本的には、漢方薬は西洋薬との併用もでき、副作用もほとんどないため、安心して服用できます。しかし、自分の体質にぴったりと合った漢方の組み合わせでないと狙った効能が期待できないため、経験のある熟練な医師、または漢方医に相談するとよいでしょう。